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東京地方裁判所 昭和62年(ワ)15771号 判決

原告

凾南ゴルフ倶楽部株式会社

右代表者代表取締役

久保田旨一

原告

凾南ゴルフ倶楽部

右代表者理事長

松永太

原告

久保田旨一

松永太

松田孝

近藤高嶺

斉藤喜久太郎

原告ら訴訟代理人弁護士

鰐川省三

中村清

村上誠

勝木江津子

上山一知

右訴訟復代理人弁護士

山根一弘

被告

インターナショナル通商株式会社

右代表者代表取締役

坂本好誠

被告

松本久尋

溝口陽一

被告ら訴訟代理人弁護士

糠谷秀剛

古瀬駿介

主文

1  被告らは、各自、原告凾南ゴルフ倶楽部株式会社及び同凾南ゴルフ倶楽部に対し、別紙物件目録一の2記載の各立看板を撤去せよ。

2  被告らは、各自、原告凾南ゴルフ倶楽部株式会社に対し、六〇〇万円及び内金五〇〇万円に対する昭和六二年一二月二〇日から、内金一〇〇万円に対するこの判決確定の日の翌日から、各支払済みに至るまで年五分の割合による金員を、原告凾南ゴルフ倶楽部に対し、三六〇万円及び内金三〇〇万円に対する昭和六二年一二月二〇日から、内金六〇万円に対するこの判決確定の日の翌日から、各支払済みに至るまで年五分の割合による金員を、原告近藤高嶺に対し、六〇万円及び内金五〇万円に対する昭和六二年一二月二〇日から、内金一〇万円に対するこの判決確定の日の翌日から、各支払済みに至るまで年五分の割合による金員を、それぞれ支払え。

3  原告らの被告らに対する印刷物の配布等の差止めを求める訴えを却下する。

4  原告らの被告らに対するその余の請求を棄却する。

5  訴訟費用はこれを二分し、その一を原告らの負担とし、その余を被告らの負担とする。

6  この判決は、原告らの勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一原告ら

1  被告らは、各自、原告らに対し、別紙物件目録一の2記載の各立看板を撤去せよ。

2  被告らは、原告らに対し、別紙物件目録二の1及び2記載の各印刷物その他原告らを誹謗中傷する印刷物の配布、配達、発送等を一切してはならない。

3  被告らは、原告らに対し、別紙物件目録二の3記載の印刷物の配布、配達、発送等を一切してはならない。

4  被告らは、各自、別紙請求金員目録記載の原告らに対し、同目録請求金額欄記載の各金員及びその各内金である同目録損害賠償金欄記載の金員に対する昭和六二年一二月二〇日から、同目録弁護士費用欄記載の金員に対する本判決確定の日の翌日から、各支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

5  訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決及び仮執行の宣言を求める。

二被告ら

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

との判決を求める。

第二当事者間に争いのない事実関係

次の事実は、いずれも当事者間に争いがないか又は各項に掲記の関係証拠によって、これを認めることができる。

一当事者の関係等

1  凾南ゴルフ倶楽部株式会社(以下「原告会社」という。)は、東京都目黒区〈番地略〉に本店を置き、静岡県田方郡凾南町桑原高雄山所在のゴルフ場(以下「本件ゴルフ場」という。)の経営、管理及びこれに附帯する業務を行うことを目的として昭和五五年一一月に設立された株式会社、原告凾南ゴルフ倶楽部(以下「原告倶楽部」という。)は、本件ゴルフ場の利用権を有する者によって構成され、その会員が本件ゴルフ場を使用し、これによって健全なゴルフの普及発展を期するとともに、会員相互の親睦を図ることを目的として昭和五六年二月に設立された団体、原告久保田旨一(以下「原告久保田」という。)は、原告会社の代表取締役(昭和五七年二月取締役就任、昭和六〇年四月代表取締役就任)及び原告倶楽部の副理事長(昭和五六年七月理事就任、昭和五八年副理事長就任・〈書証番号略〉)、原告松永太は、原告会社の取締役(昭和六一年一月就任・〈書証番号略〉)及び原告倶楽部の理事長(昭和五六年八月副理事長就任、昭和六一年二月理事長・〈書証番号略〉)、原告松田孝(以下「原告松田」という。)は、原告会社の監査役(昭和五五年一一月の原告会社設立時に就任)及び原告倶楽部の理事(昭和五六年八月就任・〈書証番号略〉)、原告近藤高嶺(以下「原告近藤」という。)は、原告会社の取締役(昭和五九年七月就任・〈書証番号略〉)及び原告倶楽部の理事(昭和五六年七月就任・〈書証番号略〉)で、支配人として本件ゴルフ場の管理、運営に当っている者、原告斉藤喜久太郎(以下「原告斉藤」という。)は、原告倶楽部の理事(昭和六一年一月就任・〈書証番号略〉)であるとともに、原告会社に本件ゴルフ場の敷地を賃貸している箱根山御山組合の監査役である者である。

2  他方、被告インターナショナル通商株式会社(以下「被告会社」という。)は、自動車及び中古自動車の売買、不動産の売買、ゴルフ場、ホテル、レストラン等の経営を目的とする株式会社であるが、かねてからゴルフ場を経営することをその事業のひとつに加えることを企図して、後にみるとおり、昭和六〇年九月に訴外Y(以下「訴外Y」という。)からその支配下にあった原告会社の株式約四万株を買い受ける旨の契約を締結したことに始まって、本件ゴルフ場とかかわりを持つようになったものであり、被告松本久尋(以下「被告松本」という。)は、会社を経営するかたわら、かねてからゴルフ場の経営をめぐる紛議や取引に関する業務に数多く従事してきて、ゴルフ場の経営業界に通曉していた者(同被告本人尋問の結果)、被告溝口陽一(以下「被告溝口」という。)は、原告倶楽部の会員(もっとも、原告倶楽部は、昭和六一年一月、被告溝口に対して、除名処分を予告する通知をしたが、未だ除名処分をしてはいない。)であるが、昭和六〇年九月頃、「凾南ゴルフ倶楽部の会員の権利を確立し、追徴金その他の負担なしでゴルフを楽しむことができるようにすること」を目的とするという「凾南ゴルフ倶楽部を守る会」の代表として行動している者である。

二本件ゴルフ場の経営をめぐる紛議の経緯等

1  本件ゴルフ場の経営に当るため昭和四三年に設立された訴外株式会社パレスゴルフクラブ(以下「パレスゴルフクラブ」という。)は、昭和四六年頃以降に相次いで本件ゴルフ場のコースを開設又は増設して、その経営に当っていたものであるが、昭和五〇年頃以降、造成費の高騰、会員権の乱売、一部の会員からの預託金返還請求訴訟の提訴等によって、資金繰りに窮し、金融業者から多額の融資を受けるなどして、経営の危機に陥った。

2  訴外Yは、昭和五三年四月頃、右のような状態にあったパレスゴルフクラブの経営権を取得して、その代表取締役に就任したが、その経理は乱脈を極め、会員権を乱売したうえ、その代金を着服するなどして、約四八億円の使途不明金を出し、昭和五六年九月には業務上横領、法人税法違反等の罪で検挙され、起訴されるに至った(因に、訴外Yは、その後の昭和五九年七月、右被告事件について懲役五年の実刑判決を受けた。)。

ところが、訴外Yは、この間の昭和五五年一一月、他方で本件ゴルフ場の経営に当らせるために新たに原告会社(当時の商号は株式会社トーカン)を設立し、発行済み株式の過半数を支配しその実質的なオーナーとして、訴外福田清、同吉本五郎及び同吉村勝彦を順次原告会社の代表取締役に就任させ、同年一二月、パレスゴルフクラブから本件ゴルフ場の敷地の借地権、クラブハウス、その他の建物、設備等を代金四億円で買い受けて、その経営に当たるようになった。

なお、右の当時における原告倶楽部の会員は、約一八〇〇〇名の多数に達していた。

3  ところが、訴外Yは、昭和六〇年三月頃、株式の仕手戦に失敗してその負債の返済に窮したため、その支配していた原告会社の株式約四万株を訴外株式会社ワールドゴルフディベロップメントに譲渡して返済資金を得るべく、原告会社の取締役会に右株式の譲渡承認の申請をした。

これに対して、原告会社の取締役のうち原告倶楽部の理事会の推薦を受けて原告会社の取締役に就任した者らは、右株式譲渡に反対して、同年四月に開催された取締役会において右譲渡承認を否決し、これに伴って、従前の代表取締役吉村勝彦は退任して、原告久保田が原告会社の代表取締役に就任するに至った。

4  原告会社は、原告会社と原告倶楽部とが一体となって本件ゴルフ場の再建に取り組むとして、昭和六〇年四月、原告会社の債務の返済資金あるいは訴外吉村の支配下にある原告会社の株式約四万株を取得する資金に充てるために、原告倶楽部の会員から拠出金を募って、約二四〇〇名の会員から合計約一二億円の拠出金の応募を得た(第一次拠出金募集)。

そして、原告会社は、右拠出金をもって訴外Yから前記株式を買い受けようとしたが、成約をみなかったため、昭和六〇年九月、取締役会において、一〇万株の新株発行決議を行って、これを原告倶楽部理事長に割り当て、さらにこれを前記の拠出金募集に応募した会員に配分するものとする旨の決議を行った。

ところが、訴外Yは、原告会社を債務者として、東京地方裁判所に右の新株発行の停止を求める仮処分命令の申請を行う一方で、同月、被告会社に対して、その支配する原告会社の株式約四万株を売り渡す売買契約を締結していたが、同年一〇月、右仮処分申請事件の審尋期日において、原告倶楽部理事長との間において、被告会社との右株式の売買契約を解約することを条件として原告倶楽部理事長に代金一〇億円で右株式を売り渡す旨の裁判上の和解を行い、原告倶楽部理事長は、同年一二月、右裁判上の和解に基づいて、右株式の引渡しを受けて買い受けた。

そして、原告会社は、同年一一月、右株式買受資金等に充てるため、原告倶楽部の会員から再度拠出金を募って、約三〇〇名の会員から合計約三億一〇〇〇万円の拠出金の応募を得た(第二次拠出金募集)。

5  原告倶楽部は、昭和六一年二月に会則を改正するなどして、前記拠出金の募集に応じた会員を賛助正会員、賛助平日会員として、右募集に応じなかった会員に対する土曜日、日曜日及び休日における優先プレー権を認め、また、会員総会への出席資格を有する者を賛助正会員に限定するなどの優遇措置を講じることとし、また、原告会社の株式を譲与するなどした。

三本件立看板の掲出及び本件文書の配布等

1  被告溝口は、昭和六〇年一一月頃、本件ゴルフ場への進入路入口付近の静岡県〈番地略〉及び〈番地略〉の各土地の一部(別紙物件目録一添付の現場地図の「事務所」と表示された部分)を借り受け、そこにプレハブ小屋を建築して、「凾南ゴルフを守る会」と書かれた看板を掲げ、また、右進入路沿いの山林内に右目録一の1記載の各立看板を掲出し、その後、昭和六二年三月頃、一旦はこれを撤去したものの、同年四月頃、再び右目録一の2記載の各立看板を同目録添付の現場地図の対応する番号記載の場所に掲出して(これらの立看板を以下「本件立看板」という。)、現在に至っている(〈書証番号略〉)。

2  そして、被告溝口は、昭和六〇年一一月末頃以降、ほぼ連日のように、東日本旅客鉄道株式会社凾南駅前広場又は本件ゴルフ場への進入路上において、本件ゴルフ場への来場者等に対して、「凾南ゴルフ倶楽部を守る会」代表溝口陽一名義の「会員の皆様へ」と題し一定の期間毎に新たな内容を記載した文書を自ら配布したり他の者をして配布させ、あるいは、原告倶楽部の会員に対してこれを送付するなどしている。

右文書の記載内容は、別紙物件目録二の1ないし3などのとおりのものである(これらの文書を以下「本件文書」という。)。

第三原告らの請求、争点及びこれについての当事者の主張

一原告らは、以上のような事実関係の下において、

1  被告会社及び被告松本は、原告倶楽部の会員であった被告溝口と共謀して、原告会社の前記のような混乱に乗じて、原告会社をその支配下におき、会員権を増発するなどして利益を得ようと企て、被告溝口に「凾南ゴルフ倶楽部を守る会」の代表を名乗らせて、これを違法な実体を隠蔽する手段とし、原告会社、原告倶楽部又はそれらの役員を誹謗中傷し、原告会社又は原告倶楽部の資金調達を困難ならしめ、あるいは、原告会社の業務を妨害してその経営を行き詰まらせて倒産させ、本件ゴルフ場を乗っ取ろうとする一連の意図の下に、前記のとおり、本件立看板を掲出し又は本件文書の配布若しくは送付するなどしたものである。

2  本件立看板の記載内容は、原告らに関する虚偽の事実又は誹謗的な文言を羅列したものであり、また、本件文書の記載内容も、原告らを侮辱したり誹謗中傷し又は原告らに関する虚偽の事実を述べるものであって、本件ゴルフ場来場者に対して原告らが犯罪ないし不正行為を犯しているかの疑念を抱かせて、原告らの名誉及び信用を著しく毀損するものである。

被告らのこれらの行動は、違法な手段によって本件ゴルフ場を乗っ取ろうとする意図の下になされたものであり、一体をして原告らの名誉、信用及び名誉感情を害する不法行為を構成する。

3  そこで、原告らは、被告らに対して、主位的には原告らの名誉、信用等の人格権に基づき、予備的には不法行為の効果としての、妨害排除若しくは妨害予防請求権又は差止請求権に基づき、本件立看板のうち現に存置されたままになっている別紙物件目録一の2記載の各立看板の撤去、本件文書のうち別紙物件目録二の1ないし3記載の印刷物の配布等の差止めを求め、また、原告らの名誉、信用及び名誉感情を害されたことに対する損害賠償として、別紙請求金員目録記載のとおりの慰謝料、弁護士費用及び遅延損害金の支払いを求める。

というのである。

二これに対して、被告らは、

1  パレスゴルフクラブの代表取締役であった訴外Yは、前記のとおり、乱脈経理、会員権の乱売、会員権売買代金の着服等によって、パレスゴルフクラブの経営を破綻に陥れておきながら、他方では新たに原告会社を設立して発行済み株式の過半数を支配し、パレスゴルフクラブから本件ゴルフ場の敷地の借地権、クラブハウス、その他の建物、設備等を買い受けて、その経営に当たるようになったものであるが、被告溝口ら原告倶楽部の一般会員らは、訴外Yが原告会社の発行済み株式の過半数を支配していることを知らされておらず、原告会社が訴外Yと訣別して健全なゴルフ場経営をするものと信じていたのであって、右事実は、被告溝口ら原告倶楽部の一般会員の期待を裏切るものであった。

そればかりか、原告会社は、訴外Yからその支配する株式を買い取るために原告倶楽部の会員から拠出金を募り、これに応じた約二七〇〇名の会員を賛助正会員、賛助平日会員として右募集に応じなかった約一五三〇〇名の正会員及び平日会員に対する土曜日、日曜日及び休日における優先プレー権を認め、また、会員総会への出席資格を有する者を賛助正会員に限定するなどの優遇措置を講じるなどして、右募集に応じなかった会員の締め出しを図るようになったものである。

2  そこで、被告溝口は、昭和六〇年九月頃、「原告倶楽部の会員の権利を確立し、追徴金その他の負担なくして本件ゴルフ場でゴルフを楽しむことができるようにすること」を目的として、これに賛同する他の会員とともに「凾南ゴルフ倶楽部を守る会」を組織し、その代表者として活動してきたものであって、本件立看板の掲出や本件文書の配布等は、「凾南ゴルフ倶楽部を守る会」の独自の活動である。

そして、本件立看板の文言や本件文書の記載内容は、そのほとんどが本件ゴルフ場の経営をめぐって原告会社、原告倶楽部又はこれらの役員らの採った措置の不当さや不公正さを指摘するものであって、なんら事実に反する記述を含むものではなく、右のような目的に出た正当な行動であって、もとより原告らに対する不法行為を構成するものではない。

というのである。

第四当裁判所の判断

一原告倶楽部の社団性及び当事者能力について

先ず、原告倶楽部が当事者能力を有するかどうかについてみるに、〈書証番号略〉(凾南ゴルフ倶楽部会則)、原告会社代表者兼原告久保田本人の尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告倶楽部は、原告会社が保有し経営管理する本件ゴルフ場を使用し、会員がこれを所定の条件をもって利用することによって、健全なゴルフの普及及び発展を期するとともに、会員相互の親睦を図ることを目的とした団体であって、いわゆる預託金会員制のゴルフクラブとは異なり、前記のとおり拠出金の募集に応じ原告会社の株式の譲与を受けた賛助会員約二七〇〇名、その他の会員約一五三〇〇名をもって構成され、決議機関として会員総会と理事会を持ち、そこでの決議はいずれも多数決によって決せられ(もっとも、賛助正会員以外の会員は、前記のとおり、会員総会の決議に加わることはできないが、そのことが直ちに原告倶楽部の社団性の有無に影響を及ぼすものではない。)、代表機関には理事会において互選される理事長がこれに当り、原告倶楽部を代表するほか、その業務を総括するものとされており、また、原告会社から本件ゴルフ場及びその付属施設の賃貸を受けて、これを会員に使用させるとともに、原告会社に対して賃料等の使用料を支払う義務を負うなど、原告会社とは別個、独立の権利義務の帰属主体となることが予定されているものであることを認めることができる。

したがって、原告倶楽部は、いわゆる権利能力なき社団として社団性を有し、民事訴訟法四六条の規定によって当事者能力を有するものと解するのが相当である。

二被告らの間における関連共同性について

1  ところで、原告らは、本件立看板の掲出及び本件文書の配布等は、被告らが共謀して原告会社の混乱に乗じて原告会社をその支配下におき本件ゴルフ場を乗っ取ろうとする一連の意図の下に、「凾南ゴルフ倶楽部を守る会」を違法な実体を隠蔽する手段として使い、「凾南ゴルフ倶楽部を守る会」又はその代表とされる被告溝口の名において行っているものであると主張するのに対して、被告らは、「凾南ゴルフ倶楽部を守る会」は、原告会社又は原告倶楽部による本件ゴルフ場の不当な運営等から会員の権利を確立し、追徴金その他の負担なくして本件ゴルフ場でゴルフを楽しむことができるようにすることを目的として、原告倶楽部の会員によって組織されたものであって、本件立看板の掲出や本件文書の配布等は「凾南ゴルフ倶楽部を守る会」の独自の活動であると主張するので、先ず、これらについての被告らの間における関連共同性の有無について検討する。

2  先に摘示した事実に〈書証番号略〉、証人多田孝次の証言、原告近藤高嶺、被告松本及び同溝口各本人尋問の結果、原告倶楽部代表者兼原告松永本人尋問の結果、原告会社代表者兼被告久保田本人の尋問の結果並びに被告会社代表者尋問の結果によれば、被告松本は、昭和六〇年四月頃、訴外Yが原告会社の株式を売却する意向を持っていることや原告会社の前記のような内紛を聞き及び、かねてからゴルフ場を経営したい意向を持っていた被告会社の代表取締役坂本好誠(以下「被告会社坂本」という。)にこの話を持ち込み、被告会社は、被告松本の協力によって、訴外Yから右株式を買い受けて、本件ゴルフ場の経営権を掌中にしようとしたこと、ところが、原告会社及び原告倶楽部は、その頃、原告倶楽部の会員から拠出金を募り、これによって訴外Yの支配下にあった原告会社の株式を取得しようとしていて、それが成功した場合には、被告会社が本件ゴルフ場の経営権を取得することができなくなるところから、被告会社は、同年九月一二日頃、訴外Yとの間において、急遽、その支配する原告会社の株式約四万株を買い受ける旨の売買契約を締結したこと、ところが、訴外Yは、同年一〇月九日、前記仮処分申請事件の審尋期日において、原告倶楽部理事長との間において、被告会社との右株式の売買契約を解約することを条件として原告倶楽部理事長に代金一〇億円で原告会社の右株式を売り渡す旨の裁判上の和解を行い、そのままでは被告会社が右株式を取得することができなくなる可能性があったこと、そこで、被告松本及び被告会社坂本は、原告倶楽部の会員に対して、原告倶楽部の前記拠出金の募集に応じないように働きかけるなどするとともに、「凾南ゴルフ倶楽部をインターナショナル通商株式会社が経営することに同意する。」旨の記載のある同意書を原告倶楽部の会員から徴する行動を展開し、原告会社や原告倶楽部による本件ゴルフ場の運営に不満を持っていた被告溝口も、その頃以降、被告松本や被告会社坂本の働き掛けに応じて、右の行動に参加するようになったこと、原告倶楽部は、右同月頃以降、右株式の買受代金等に充てるため、再度会員から拠出金を募ることとし、また、右募集に応じた会員に対しては土曜日、日曜日及び休日における優先プレー権を認めるなどの優遇措置を講じることとしたが、これに対応して、被告溝口は、原告倶楽部の会員に対して入会申込用の葉書を送付するなどして、「原告倶楽部の会員の権利を確立し、追徴金その他の負担なくして本件ゴルフ場でゴルフを楽しむことができるようにすること」を目的とする「凾南ゴルフ倶楽部を守る会」への賛同者を募り、また、本件ゴルフ場への進入路入口付近の土地を借り受け、そこにプレハブ小屋を建築して、「凾南ゴルフ倶楽部を守る会」と書かれた看板を掲げ、また、その頃以降、先にみたとおり、「凾南ゴルフ倶楽部を守る会」の名において本件立看板を掲出し、本件文書を配布するようになったこと、本件文書の記載内容は、被告松本若しくは被告会社の意向を反映するものであって、右被告らから得た情報を元とし、あるいは、被告松本又は被告会社坂本との協議又は指示によって案出されたものであったこと、被告溝口や自らが「凾南ゴルフ倶楽部を守る会」の会員であるという訴外多田孝次は、被告会社が原告会社の株式を取得してその経営権を掌握し、本件ゴルフ場の経営を行うようになることを積極的に支持してこれを推進し、その旨を原告倶楽部の会員に訴え掛けるなどしていたものであること、このようにして、被告会社及び被告松本は、原告会社の株式を取得して本件ゴルフ場の経営権を掌中にしようと企て、また、被告溝口及び訴外多田孝次らの「凾南ゴルフ倶楽部を守る会」を組織したと称する者らは、拠出金の募集に応じた会員に対しては優先プレー権を認め会員総会への出席資格を有する者をこれらの者に限定する原告会社及び原告倶楽部の本件ゴルフ場の経営方針に反対し、かえって被告会社が原告会社の株式を取得して本件ゴルフ場の経営に当ることを積極的に支持するなどして、それぞれの立場は異なるものの、結局、右のような原告会社及び原告倶楽部の経営方針に反対し、被告会社が原告会社の経営権を取得して本件ゴルフ場の経営に当ることができるようにしようとする一点においては目的を共通にし、相互に協力をし合うこととして、「凾南ゴルフ倶楽部を守る会」の代表を名乗る被告溝口が表面に立ってはいるものの、被告会社及び被告松本との密接な連携の下に、時には行動を共にするなどしながら、昭和六〇年一一月頃以降、本件ゴルフ場への進入路入口付近にプレハブ小屋を建築したことに始まって、本件立看板の掲出、本件文書の配布等の一連の行動を展開してきたものであることの各事実を認めることができる。

3  以上のような認定事実によれば、被告らは、右の全過程において、前記のような共通した目的の下に、互いに相手方の行為を利用し又は利用されるのを容認し合って意思を共通にし、時に行動を共にすることがあったほか、少なくとも主観的には共働関係において前記のような一連の行動をとってきたのであるから、被告らは、右のような一連の行動が不法行為を構成する場合においては、共にその全体について責めに任ずべきものと解するのが相当である。

三被告らの一連の行動の違法性について

1 そこで、被告らの前記のような一連の行動が原告らの名誉、信用又は名誉感情を害する不法行為を構成するものであるかどうかについて検討するに、本件事案は、先にみたとおり、要するに、原告倶楽部の会員から拠出金を募って資金を調達し、その経営の安定を図ろうとする原告らと原告会社の株式を取得して本件ゴルフ場の経営権を掌中にしようとする被告らとの間の対立抗争であって、その帰趨が約一八〇〇〇名にも及ぶ原告倶楽部の会員の利害にかかわりあるいは、右会員の動向が右対立抗争の行方を左右するものであることに鑑みると、それぞれが事実を摘示し又は意見を表明して、会員の意見の形成等に資するものとすることが当然に許容されるべきである半面、それによって故意又は過失により違法に他人の名誉、信用又は名誉感情を侵害したときには、不法行為を構成するものとして、損害賠償の責めを免れず、また、当該侵害行為の態様・程度、加害者の意図・目的、被害の程度、妨害排除の必要性、当事者双方の利害の軽重のいかんによっては、これらの人格権に基づいて侵害行為の差止めを求めることもできるものというべきである。

2  これを本件についてみるに、先ず、本件立看板の文言は、別紙物件目録一の1及び2のとおり、事実を摘示するものであるというよりは、原告倶楽部の会員から拠出金を募ろうとする原告会社又は原告倶楽部の経営姿勢を批判するスローガン的な意見の表明であるけれども、他方、原告久保田、同松田その他の原告会社又は原告倶楽部の役員らが背後で訴外Yと結託しているのではないかを疑わせるような文言、原告久保田、同松永、同松田、同近藤らが原告倶楽部の会員を欺罔しようとしていることを印象づけるような文言、原告会社及び原告倶楽部の役員らが会員の利益の犠牲において自らの利益を図っているのではないかとの誤解を生じさせかねない文言、原告会社の経営の不健全性を印象づけるような文言、原告会社又は原告倶楽部の役員らの独断専行を疑わせるような文言も含まれている。

そして、〈書証番号略〉によれば、本件ゴルフ場への進入路に沿った山林中に掲出された多数の本件立看板は、およそゴルフ場にはふさわしくない異様な景観を呈するものとなっていることを認めることができ、本件ゴルフ場の品位・品格を著しく低下させ、ひいては原告会社又は原告倶楽部の信用を毀損する結果となっていることが明らかである。他方、本件立看板のこれらの文言は、単なるスローガン的なものにとどまっていて、事実を摘示し又は意見を表明して会員等に情報を提供し、その意見の形成に資するという効用はほとんどなく、専ら原告会社又は原告倶楽部に害を与えることを目的としたものといわざるを得ない側面がある。

次に、本件文書の記載内容は、別紙物件目録二の1ないし3などのとおりのものであって、先に認定した事実経過、第四の二の2掲記の証拠、〈書証番号略〉及び原告松田本人尋問の結果に照すと、そこには事実を不正確に摘示し、事態を誇張し、虚実を織り混ぜ又は事実に基礎を置かない部分が含まれ、これに基づいて全体として原告会社又は原告倶楽部の役員らと訴外Yとの癒着・結託、原告会社又は原告倶楽部の役員らの専横、原告会社の経営の不健全性等を結論づけるものである。そして、これらの文書とは別に被告溝口が配布するなどした〈書証番号略〉などの文書も、概ねこれと同様のものである。

また、〈書証番号略〉及び原告近藤及び被告溝口各本人尋問の結果によれば、被告溝口又はその意を受けた何者かは、昭和六一年春頃、原告近藤が配下の未婚女性の従業員と深い関係にある旨の記載のある「凾南ゴルフ倶楽部を守る会」宛の偽名者からの投書書簡又はそれを偽した文書を原告倶楽部の会員等に配布した。

3  そして、本件立看板の文言及びその掲出の状況、本件文書の記載内容、その他の諸事情に照すと、被告らは、結局、これらの一連の本件立看板の掲出、本件文書の配布等によって原告倶楽部の会員らが原告会社及び原告倶楽部の役員らに対して不信感を抱き、拠出金の募集に応じないように仕向けて、その結果、原告会社が資金繰りに窮し経営の危機に陥るのに乗じて、原告会社の株式を取得しその経営権を掌中にすることを企図したものと推認せざるを得ないのであって、企業活動としても明らかに社会通念上許容される範囲を逸脱するものであり、これを正当化する余地はない。

したがって、被告らが関連共同してした本件立看板の掲出及び本件文書の配布等の一連の行動は、全体として原告会社及び原告倶楽部のみならず原告久保田、同松永、同松田及び同近藤の名誉、信用及び名誉感情を不当に害する違法なものであって、不法行為を構成するものといわざるを得ない。

四差止めの適否及び損害賠償について

1 そして、本件立看板の掲出が本件ゴルフ場を経営し運営する原告会社及び原告倶楽部の信用等に前記のような深刻な悪影響を与えること、これを撤去すべきものとしても被告らが被る不利益は少ないこと、被告らが本件立看板を掲出する意図・目的、その他の先に説示した諸事情に照すと、原告会社及び原告倶楽部は、団体として有する名誉、信用等の人格権に基づき、被告らに対して、本件立看板(別紙物件目録一の2記載のもの)の撤去を求めることができるものというべきである(これとは別に、その余の原告ら個人が被告らに対して右立看板の撤去を求め得べきものとする理由はない。)。

2 他方、原告らは、被告らに対して、本件文書中の一部のものを特定し又は例示してその配布等の差止めを求めるけれども、被告らが今後かつて配布したものと全く同一内容の記載のある文書を再度配布するものとは容易に想定されないし、およそ原告らを誹謗中傷する文書の配布等の差止めを認めることは、例示文書によってなんらかの限定を付すこととしても、結局、一般禁止命令を発するに等しく、原告らの右のような訴えは、不適法といわざるを得ない。

3  最後に、原告らの被告らに対する慰謝料等の請求について検討すると、以上に説示した諸般の事情に照すと、被告ら各自は、前記の一連の不法行為によって原告会社の名誉、信用等を害したものとして、原告会社に対して、慰謝料五〇〇万円及び弁護士費用相当額一〇〇万円を、同様の理由によって、原告倶楽部に対して、慰謝料三〇〇万円及び弁護士費用相当額六〇万円を支払うべき義務があるものと解するのが相当である。また、被告ら各自は、原告近藤に対して、前記のとおり原告近藤の個人的な事情に属する事実を摘示してその名誉を害したものとして、慰謝料五〇万円及び弁護士費用相当額一〇万円を支払うべき義務があるものというべきである。そして、その余の原告ら個人については、被告らの侵害行為は、前記のような意図・目的に基づくものであって、右原告ら個人に向けられたものではないことに鑑みて、原告会社及び原告倶楽部とは別個に慰謝料をもって償うべきほどにその名誉、信用等が害されたものとは考えられない。

五以上のとおりであるから、原告らの本訴請求及び本件訴えのうち、原告会社及び原告倶楽部の被告らに対する立看板撤去の請求並びに原告会社、原告倶楽部及び原告近藤の被告らに対する右説示の限度での慰謝料等の請求(主文掲記のとおりの民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを含む。)は、いずれも理由があるものとしてこれを認容し、原告らの被告らに対する印刷物の配布等の差止めを求める訴えは、不適法としてこれを却下し、原告らの被告らに対するその余の請求は、いずれも失当として棄却することとして、訴訟費用の負担については民事訴訟法八九条、九二条及び九三条の、仮執行の宣言については同法一九六条の各規定を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官村上敬一 裁判官小原春夫 裁判官岡部豪)

別紙物件目録一

1 別添看板一覧表一記載の各立看板 二四枚

2 別添現場地図上の番号1ないし35の場所に設置された別添看板一覧表二記載の右番号に対応する文言が記載された立看板 三五枚

別紙物件目録二

1 別添の「凾南ゴルフ倶楽部を守る会」代表溝口陽一名義の昭和六二年八月一九日付「会員の皆様へ」と題する文書

2 同昭和六二年九月二五日付文書

3 同一九八九年一月三日付文書

別紙看板一覧表〈省略〉

別紙現場地図〈省略〉

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